私の大好きな作家である浅倉秋成さん、そしてお気に入りの小説である『俺ではない炎上』
その作品が映画化されるということで、公開初日に観てきました。
途中までは原作を忠実に再現しつつ、後半では映画版ならではの秀逸なアレンジも加えてあり、満足度の高い映画でした。
小説版では叙述トリックが使われており、映像化が難しい作品だと思っていたので、脚本を担当された方が相当に優秀だったと思います。
映画版はコンパクトで分かりやすく、原作(小説版)はより重厚なストーリーが楽しめるので、もし映画だけを見た方は、原作を読んでみることをお勧めします。
自分はどちらも好きですが、どちらかというと小説版の方が好きなので。
それでは、映画『俺ではない炎上』を徹底解説していきます。
この記事は、本作品の重大なネタバレを含んでいます
コミックス版もあります
目次
俺ではない炎上 あらすじ

大手ハウスメーカーに勤める山縣泰介(阿部寛)は、ある日突然、彼自身のものとしか思えないSNSアカウントに女子大生の死体画像をアップされ、殺人犯に仕立て上げられる。
家族を愛し誠実に働いていた泰介にとって身に覚えのない事態に無実を訴えるも、瞬く間にネットで拡散され、“炎上”状態に。
匿名の群衆にこぞって個人情報を晒され、日本中から追いかけまわされることになる。
そこに彼を追う謎の大学生・サクラ(芦田愛菜)、大学生インフルエンサー・初羽馬(藤原大祐)、泰介の取引先企業の若手社員・青江(長尾謙杜)、泰介の妻・芙由子(夏川結衣)といった様々な人物が絡み合い、事態は予測不可能な展開に。
無実を証明するため、そして真犯人を見つけるため、泰介の決死の逃亡が始まる――。
俺ではない炎上の根幹:叙述トリック

出典:映画.com
小学生の山縣夏実とえばたんが登場するパートは十年前の話になっていて、現代の住吉初羽馬のパートに出てくるサクラ(んぼ)の正体が山縣夏実
本作品の1番の肝はここです。
映画版では、小学生の夏実と大学生のサクラのシーンが交互に描かれますが、この2人は同一人物であり、映像の年代が異なるというところがポイントです。
小学生の夏実が登場するシーンはすべて2013年の出来事、大学生のサクラが登場するのが現代です。
小説版では、「俺ではない炎上」は時系列が混ぜ込まれた叙述トリックが使われています。
映画版 俺ではない炎上 時系列
こちらは映画版『俺ではない炎上』についてまとめており、小説版とは異なる箇所があります。
過去の時系列
- 12年前、小高い丘で遊ぶ山縣家。夏実がその場所を看板の読める文字から「からにえなくさ」と命名
- 11年前、夏実がネットで犯罪者の成人男性と会おうとしていたことが分かり、泰介は夏実を倉庫に一晩中閉じ込める
- 夏実とえばたん(青江)、犯人探しを始める(夏実が会おうとしていた男性探し)。公園にいた不審者が落としたメモには「屋根瓦が三つ。その中の、からにえなくさが目印です」
- 自宅の植木鉢から家の鍵を取り出す夏実。えばたんはパソコンで犯人について調べる。
- 夏実、えばたんに泰介に怒られたことを涙ながらに話す。
- 夏実、メモは自分が書いたと、えばたんに真相を語る。
- 夏実、「たいすけアカウント」を開設。泰介のゴルフ仲間を募るためため、何回かツイートを行う。
現代の時系列
- 青江が「たいすけ@taisuke0701」アカウントを乗っ取る
- 青江が女性を殺害し、たいすけアカウントで「血の海地獄」のツイート
- 初羽馬が「血の海地獄」を引用リツイートして、急速に拡散する
- 泰介が犯人だとネットで騒がれ、泰介は自宅待機に
- サクラ(夏実)、初羽馬にDMを送る
- 泰介、自宅倉庫で死体を発見。愛車のベンツで逃走
- 泰介、釣具店で車を停め、走って逃走
- 泰介、スナック「しずく」で食事
- 翌日、サクラと初羽馬が泰介探しを開始
- 泰介、部下の塩見に助けを求めるが、自分が周囲に嫌われていることに気付く
- シーケンのコンテナハウスに到着。決死の覚悟で崖を降りる
- 青江、コンテナハウスで泰介を見つける
- 青江と泰介、座標に記された場所、「からにえなくさ」に向かう
- 夏実、初羽馬に協力を依頼した理由を語る「あんたが諸悪の根源だからだろうが」
- 泰介、からにえなくさで3人目の女性の死体を見つける
- 泰介、「今度はあなたが暗闇に閉じ込められる番」とか書かれたメモを読み、自死を図る
- 夏実が飛び込んできて、間一髪脱出する
- 青江を取り押さえる
- 泰介、芙由子、夏実、病室でそれぞれが「自分が悪い」と互いを思いやる
俺ではない炎上の犯人:えばたん

出典:映画.com
俺ではない炎上の犯人は、実は映画版と小説版では異なります。
小学生の夏実パートに登場する「えばたん」が犯人なのはどちらも共通しています。
ただし、映画版ではえばたんの正体は、シーケンの若手社員である青江拓哉。
本名は、映画内では明確に描かれませんが江波戸拓哉(えばと たくや)。
警察官だった父親が援助交際をして離婚。母親の旧姓である青江を名乗っています。
警察の取り調べに対して「あれは正義の制裁です」と語っている通り、強烈な正義感の持ち主。
悪質な援助交際で、男性側から金銭を巻き上げていた女性3人を殺害しました。
父親が援助交際をしていたという設定は映画オリジナルですが、原作では女性3人の殺害動機がやや薄かったので、ここは良い改編だと感じました。
山縣泰介に罪を擦り付けたのは、小学生の夏実を一晩中倉庫に閉じ込めたことへの復讐のようなもの。
映画内で、夏実とえばたんがいる自宅に泰介が帰ってきたときに、えばたんは抗議しようとしますが、「ひどいと思います」と声を絞り出すのがやっとでした。
「大人になったらちゃんと正しいことを言える人間になる」と宣言していました。
一方で小説版では、江波戸拓哉(えばたん)という、映画版では登場しない人物が真犯人。
シーケンの若手社員である青江は泰介を助ける味方役という設定でした。
原作の場合、小説としては犯人像は完璧に成立していますが、映画は映像で観せていくものですから。それまで物語の中に出て来なかった俳優が急に真犯人として出て来たら観客は混乱します。
原作通りに大善スターポートで青年期の江波戸拓哉を登場させたとしても、その時点で役者バレして謎解きの意外性がありません。
現在軸の中で、山縣泰介に関係する誰かが真犯人だったという構造にしないといけないのではないかと思いました。
脚本/林民夫(映画パンフレットより)
俺ではない炎上 映画と小説(原作のちがい)
映画と小説(原作)では異なる部分が数多く存在します。
重厚な小説を2時間程度の映画に落とし込むのは困難ですから、この違いは悪いものではなく、むしろ上手くまとまっていると思います。
最大の違いは、前述した犯人の正体でしたが、その他にも気になったところをいくつか紹介します。
映画では同僚の塩見は、小説では他社に転職している

出典:映画.com
まずはストーリーの大筋には影響しない小ネタから。
映画の途中で、泰介がスマホを手に入れるために立ち寄る塩見は、映画では同僚。泰介は塩見の結婚の仲人を務めています。
一方小説版では、塩見は3年前に医薬品メーカーの営業に転職。つまり顔を合わすのは久しぶりという状況でした。
ポストに刺さったネギ
シリアスなシーンばかりではなく、コメディ調の描写も多い本作品。
泰介の家のポストにネギが刺さっていたのは原作通りですが、警察に対して泰介が「ネギを捨てておいてください」と言ったり、車の中でネギを窓ガラスに叩いているシーンは映画オリジナル。
ちょっとしたユーモアとして良いアクセントになっていました笑。
その後もネギを引っ張ったのは、捨てる機会がなかったからです。捨てるときがないんですよ、あのネギ。
脚本/林民夫(映画パンフレットより)
「からにえなくさ」には、小説版では泰介は訪れていない
ここから先、私有地につき立ち入り禁止
※動物にエサを与えないでください
看板の読める部分だけを繋げて出来た言葉が「からにえなくさ」です。
終盤に泰介がプロパンガスで自死を図ろうとした場所であり、3人目の女子大生の遺体(砂倉紗枝)が見つかった場所でもあります。
映画では12年前、泰介・芙由子・夏実の3人が楽しそうに遊んでいた場所ですが、小説版では子どもたちだけの秘密の隠れ家。
12年前に泰介は訪れたことがなく、自死を図ったタイミングが初めての訪問でした。
泰介が犯人ではないと指摘したのは、芙由子ではなく青江

出典:映画.com
食欲減衰。しばらくご飯は食べられないなこれは
石けんで手を洗ったんだが、全然まだ臭い
文字どうりのゴミ掃除完了
ら抜き言葉、全然を肯定文で使うなど、本物泰介では絶対にありえない日本語のツイートをしていたアカウント。
映画では妻の芙由子がそれを指摘して、泰介が犯人ではないと信じます。
一方で、小説版で同様の指摘をしたのは青江でした。
普段は取引先の泰介に小言ばかりを言われて、泰介を恨んでいそうな青江。その青江が味方役として泰介に手を差し伸べたのは、小説版でもインパクトん強いシーンでした。
なお、小説では青江が泰介に対して「あなたは犯人ではない」と告げたタイミングで、泰介は青江のことを真犯人だと一瞬疑います。
映画版では、まさに青江が真犯人というオチでした。
たいすけのアカウントを作ったのが夏実、という事実を芙由子は知らない
炎上の発端となった、血の海地獄のツイートをしたアカウント名は「たいすけ」
これは小学生の夏実が作ったアカウントであり、その目的は泰介のゴルフ仲間を集い、ネットが悪いものではないことを泰介に伝えるためでした。
泰介はネット(SNS)への知識・理解が乏しく、アカウントも持っていません。
ネットを使って大人の男性に会おうとしていた小学生の夏実を、一晩中倉庫に閉じ込めた過去もあります。
映画では、たいすけのアカウントを作ったのが夏実という事実を芙由子は認識しており、夏実を守るために、警察の取り調べに対して曖昧な回答を繰り返していました。
一方で原作では、芙由子はアカウントを作ったのが夏実という事実を知りません。
ですが、これは作中では描かれていないだけで、実際には認識していた可能性はあると思っています。
映画 俺ではない炎上 感想

出典:映画.com
まずは、「綺麗にまとめたな」というのが、映画を見終わった最初の感想でした。
原作で叙述トリックが使用されている本作品を映像化するのは、相当に難しい作業だったと思います。
原作者の浅倉秋成さんも、「余計な引き算に興ざめするようなこともなく、とても綺麗にまとめていただきました」と脚本を称えています。(映画パンフレットより)
芙由子の実家の外観が、時間軸によって微妙に異なっていたのは上手いなと思いました。
原作は細かい設定も多く、その面白さの全てを伝えるのは不可能。
原作は面白くて私は大好きなのですが、分かりにくい箇所も多々あり、一読しただけでは物語の全容を理解するのが困難な作品です。
それが映画版では、コンパクトに分かりやすくまとまっていると思いました。
「たいすけのアカウントの持ち主は主人ではない」と芙由子が主張し始めたあたりからアレ!?と思いながら見ていましたが、まさか犯人を変えてくるなんて想像もしていませんでした。
シーケンのショールームで、青江が車の窓からサクラのことを意味深に見つめていたシーンは印象的です。
特に秀逸だと思ったのが、えばたんの父親が元警察官で援助交際をしていたという設定。
原作では、正義を理由に女子大生3人を殺害していますが、その殺害動機が身勝手すぎるという印象を受けましたが、映画版ではその動機に筋が通りやすくなっています。
また、山縣家の家族の絆をより強く感じたのは映画版です。
原作では、娘の夏実が父親を守ろうと必死に捜索する一方で、妻の芙由子とは心の距離が遠いような印象を受けました。
ですが映画版では、芙由子は必死に夏実を警察から守ろうとしています。
さらにラストの病室のシーンで、泰介・芙由子・夏実の誰もが「悪いのは私」と言い合うのも微笑ましかったです。
泰介をはじめとして登場人物の誰もが「俺は悪くない」と主張しながらも、最後は泰介が「俺が悪かった」と心を入れ替えるのが、本作品の象徴的なシーン。
映画ではすみしょー(住吉 初羽馬)がラストシーンで、「悪いのは僕かもしれない」とツイートするなど、心の変化の兆しを見せていました。
小説ではこのシーンは描かれなかったので、登場人物の心が変化していく様を描いた映画のラストシーンは素敵だったと思います。
エピローグは映画オリジナルですが、物語の締めくくりとして自然でふさわしく、最後に思いがけない贈り物をいただいたような喜びがありました。
原作/浅倉秋成(映画パンフレットより)
映画『俺ではない炎上』ロケ地
具体的な場所は明らかになっていませんが、ロケのほとんどは静岡県の浜松市で行われたと、映画のパンフレットに記されています。
シーケンのショールームは浜名湖にあるとのこと。
俺ではない炎上 主な登場人物
こちらは映画版『俺ではない炎上』についてまとめており、小説版とは異なる箇所があります。
山縣泰介(阿部寛)

本作主人公、54歳。大手ハウスメーカー営業部長。誕生日は7月1日。
趣味はゴルフ。座右の銘は「ゴルフは孤独だからこそ面白い」。
インターネットの知識が疎く、Twitterを使用した経験なし。
無実の罪(殺人罪)を着せられて逃走する。
僕は普段あまりSNSに触れることがなく不得意な分野なのですが、だからこそ脚本に描かれた世界の恐ろしさが、より強く胸に迫ってきました。(阿部寛/映画パンフレットより)
山縣夏実、サクラ(芦田愛菜)

泰介の娘、大学生2年生。住吉初羽馬と行動するときは「サクラ」と名乗る。
※サクランボは山形名産の夏の果実であるため
10年前に、山縣泰介のゴルフ仲間を探す目的で「たいすけ@taisuke0701」のTwitterアカウントを開設。
そのアカウントが悪用され、父・泰介が犯人扱いされていたことから、父を助けるために住吉初羽馬と行動を共にする。
住吉を選んだ理由のひとつは、夏実の本名を知らなそうだから。
サクラに対して「どんな女の子なの?」とミステリアスな印象を抱いていただき、映画を観終わった後にはサクラの一生懸命さの真の理由が伝わると嬉しいです。(芦田愛菜/映画パンフレットより)
山縣芙由子(夏川結衣)

泰介の妻。警察の取り調べに対して曖昧な態度を繰り返していたが、娘の夏実を守るための行動だった。
山縣家の面々は本当に不器用です。傍から見たら不十分な人たちかもしれない。でも私は物語が進み、それぞれが少しずつ歩み寄って心を寄せていく様を見た時に、この作品は「家族の再生」を信じていると感じました。(夏川結衣/映画パンフレットより)
住吉初羽馬(藤原大祐)

大学三年生。社会問題について議論するサークル「PAS」のリーダー。
Twitterのフォロワーは千人程度。「血の海地獄」のツイートを初羽馬が引用リツイートしたことで、当該ツイートが拡散され、山縣泰介が追いつめられるきっかけを作った。
夏実(サクラ)と行動を共にして、泰介を捜索した。
初羽馬は泰介同様、ストーリーの中で成長していく人物でもあります。本作が伝えたいメッセージは初羽馬が担っているのではないか?という自覚を持って演じました。(藤原大祐/映画パンフレットより)
青江拓哉、えばたん(長尾謙杜)

夏実の小学五年生の時のクラスメイト。あだ名は「えばたん」。
現在は泰介が勤める大帝ハウスの取引先であるショーケンに勤務。
10年前、夏実がロリコン男性と会おうとしていた事件の犯人を捜索。また、泰介が夏実を一晩躾として倉庫に閉じ込めたことに憤りを感じたが、泰介に対して何も言えないことに悔しさを感じていた。
悪質な援助交際をしていた女性三名を殺害し、泰介に罪をなすりつけた。
青江は正しい行いと思い込んで色々なことを実行しています。なので、演じる上では変に悪ぶることはせず、自分が正しいと信じて疑わない男に徹しようと心がけました。(長尾謙杜/映画パンフレットより)
小説版 俺ではない炎上 時系列
こちらは小説版『俺ではない炎上』についてまとめており、映画版とは異なる箇所があります。
10年前の時系列
- 夏実、友人たちと秘密基地「からにえなくさ」で遊ぶ
- 夏実がネット掲示板で男性と公園で会う約束をする
- その男性は待ち合わせ場所に現れず
- 夏実がその男性とやり取りするためにWi-fiを探す姿を、えばたんの祖父が目撃する。夏実は「からにえなくさ」のメモを落とし、慌ててスターポート行きのバスに乗り込む
- 夏実が会おうとしていた相手が、女子小学生に性的暴行を加えていたロリコンであることが、警察から泰介に伝えられる
- 泰介は夏実を一晩中倉庫に閉じ込める
- 泰介が小学校に乗り込み、職員室で大騒ぎを起こす
- 泰介が学校に乗り込んだことや夏実がレイプされたかもしれないということがクラスで噂され、夏実が早退する。
- 夏実が「たいすけ@taisuke0701」のアカウントを開設する(泰介のゴルフ仲間を探すため)
- えばたんが夏実を誘って、犯人(ロリコン)探しの旅に出る
- スターポートで、大学生から『翡翠の雷霆』の正義のバッチを受け取る
- からにえなくさにて、夏実は泰介から受けた仕打ちについて、えばたんに話す
- えばたんが泰介に怒りの感情を伝えようとするが、上手く伝えられず。「セザキハルヤ」と名乗る
現在の時系列
- 江波戸が「たいすけ@taisuke0701」アカウントを乗っ取る
- 江波戸が女性を殺害する
- 江波戸がたいすけアカウントで「血の海地獄」のツイートをする
- 16日午前9時、住吉初羽馬が「血の海地獄」を引用リツイートして、急速に拡散する
- 山縣泰介が犯人だとネットで騒がれる
- 泰介が出社するも自宅待機に。セザキハルヤから会社宛に送られた封書を見つける
- 公園で女性の死体が見つかる
- 自宅の倉庫で2人目の女性の死体が見つかる。泰介逃走開始
- 刑事は芙由子の実家で聞き取りを行う(この時点では夏実も家にいる)
- 山縣泰介、スナックで一夜を明かす
- 初羽馬とサクラ(夏実)が泰介の捜索を開始する。初羽馬はスターポートの展望エリアで『翡翠の雷霆』バッジをつけた江波戸を目撃する
- 泰介、シーケンのショールームに移動。青江の助けもあり、封書の記された座標(=からにえなくさ)に向かう
- サクラ、ショールームに残された封書から、犯人が江波戸だと気づく。
- からにえなくさにて、追いつめられた泰介が自害しようとするも、夏実に助られる
- スターポートの駐車場にて、初羽馬・泰介・サクラが江波戸を取り押さえる
- 警察の調べにより、江波戸が真犯人であることが判明する
小説版 俺ではない炎上 犯人・黒幕の正体と動機
こちらは小説版『俺ではない炎上』についてまとめており、映画版とは異なる箇所があります。
真犯人の正体
真犯人は 江波戸琢哉(えばたん)。夏実の小学校時代の同級生であり、現在は工務店に勤務している青年です。
- 幼少期に泰介が夏実を倉庫に閉じ込めた「躾」を目撃し、怒りと無力感を抱え続けていました。
- そのトラウマが歪んだ復讐心に変わり、成長後に女性3人を殺害。犯行を父・山縣泰介になすりつけるため、SNSアカウント「たいすけ@taisuke0701」を悪用しました。
犯行の動機
- 個人的復讐心:夏実を守れなかった自分の無力さを父・泰介に投影し、強い怒りを抱いていた。
- 歪んだ正義感:援助交際をしていた女性を「悪」と見なし、自分の手で断罪するという独善的な思想に取り憑かれていた。
えばたんに殺害された女性は、通常の売春よりさらに悪質な手口だった。過去にネット掲示板に個人名が流出してしまったことで
犯行の順番・手口
- 援助交際をしていた女性3人を殺害。殺害方法は絞殺。
- 篠田美紗:公園公衆トイレで発見
- 石川恵:山縣家倉庫で発見。死亡したのは篠田より先
- 砂倉紗枝:からにえなくさで発見
- 死体の写真をSNSに投稿し、泰介が犯人であるかのように偽装。(雑学botでリツイート)
- アカウント名「たいすけ」を利用し、ネット世論を誘導。炎上によって泰介を追い詰めた。
小説版『俺ではない炎上』 完全解説
こちらは小説版『俺ではない炎上』についてまとめており、映画版とは異なる箇所があります。
なぜ山縣泰介は真犯人だと疑われたのか?
[血の海地獄]のツイートをした「たいすけ@taisuke0701のアカウント」が過去に投稿していた内容から。- アカウントの末尾についている数字0701と山縣泰介の誕生日7月1日が一致したこと
- 殺人現場である万葉町第二公園の近くに山縣泰介の自宅があること
- 投稿されたゴルフバッグの写真に、山縣泰介が勤めている大帝ハウスのキーホルダーが映っていたこと
- 投稿された写真の庭とストリートビューで見つかった『山縣』表札の庭が一致していたこと
山縣泰介が警察に疑われた理由
被害者がマッチングアプリで「たいすけ」という人物とやり取りをしており、そのアカウントは「山縣泰介」のマイナンバーカードで身分証明を行っていたこと。
マイナンバーカードを入手するためには山縣泰介の家の中に侵入する必要があること
→ 自宅の予備の鍵が、玄関脇に置いてある鉢植えの奥にあるダイヤル式の箱に入っている。鍵の番号は、小学生の夏実がえばたんに伝えていた。
ツイートの送信元である自宅のWi-fiルーターのパスワードを知る必要があること
→ 大部分のツイートは夏実が行っていたので、Wi-fiルーターのパスワードを知っていて当然である
泰介の自宅で発見された遺体の後頭部についていた靴跡が山縣泰介の革靴と一定していたこと
警察の六浦が山縣泰介以外の犯人を想定していた理由は?
警察の堀健比古が山縣泰介を真犯人だと断定して捜査していたのに対し、六浦だけは他の犯人の可能性を模索し続けていました。
『たいすけ』アカウントのツイートの送信元がすべて山縣泰介の自宅のWi-fiルーターからだったこと。
→ 通常であれば、自宅以外の場所からも送信されているはず。
『たいすけ』アカウントの全ての投稿が、スマートフォンからではなくAndroid搭載のウォークマンからだったこと
→山縣泰介はスマートフォンを所持しており、わざわざウォークマンでツイートする必要がない
警察が江波戸を真犯人だと断定した理由
- 泰介の自宅倉庫で発見された女性遺体が入れられていたビニール袋の指紋と江波戸の指紋が一致したこと
- 女性はいずれも絞殺されていたが、ロープの入射角から犯人が150~160センチだと推定されていたこと(江波戸は158センチ)
- 江波戸が「血の池地獄」を25番目にリツイートした雑学botの持ち主だったこと
- 山縣泰介の職場に送られた封書の文面が、江波戸のスマートフォンのメモアプリから発見されたこと
- からにえなくさ付近に設置されていた防犯カメラに何度か江波戸の姿が映っていたこと
泰介に謎の封書と送った人物セザキハルヤとは?
山縣泰介さま
事態はあなたが想像している以上に切迫しています。
誰も信用してはいけない。誰もあなたの味方ではない。
唯一助かる可能性があるとすれば、選ぶべき道は一つだけ。
逃げる、逃げ続ける。それだけです。
どうしても辛くなったら「36.361947, 140.465187」
セザキ ハルヤ
この封書を送ったのは真犯人の江波戸。泰介に自害を迫るために送ったもの。
文章内の数字はからにえなくさの場所(緯度,経度)を示している。
セザキハルヤは少年漫画「翡翠の雷霆」の主人公。正義を信じてひたすらまっすぐに進み続ける人物。
決め台詞は「どんなことがあっても俺は君を肯定する」「私は私の信念を貫く」
「からにえなくさ」の場所と意味
文字どうりのゴミ掃除完了。一人目のときもちゃんと写真撮っとけばよかった。『からにえくさ』に持ってくかどうかはまだ考え中。
真犯人がツイートした謎の言葉『からにえくさ』
正式名称は順葉緑地。近隣の人間が「丘」と呼んでいる、味気のない野山。
個人経営の牧場があったが経営破綻して放置されていた三軒の家屋があり、その真ん中の家が「からにえなくさ」
夏実が小学生の頃に友人と秘密基地として活用していた。
家の前には古びた看板がある。書かれていた文字は以下の通り。
ここから先、私有地につき立ち入り禁止
※動物にエサを与えないでください
そのほとんど掠れており、正確に判読できる文字はたったの7文字だった。
からにエなくさ
山縣夏実が10年前に受けたこと
小学生の夏実がネットの掲示板で、ある男性と会う約束を取り付けた。
しかし、その男性は複数の女子小学生に性的暴行を働いていたことが発覚。警察に追われる身となっており、夏実との待ち合わせ場所に現れなかった。
警察から事情を聴いた山縣泰介は、夏実を庭の倉庫に一晩中閉じ込めた。
その後、泰介が小学校にクレームをつけに乗り込み、騒ぎを起こした。
父の騒動について教えられた夏実は、金縛りに遭ったように職員室のパイプ椅子から動けなくなった。
序盤のこちらの文は、泰介が殺人犯として疑われている事件ではなく、泰介がクレームに乗り込んできたことを指す。
初羽馬がサクラを真犯人だと勘違いしていた理由
サクラが包丁を所持していたこと
→ 護身用には不向きであり、山縣泰介の殺害を試みていると考えた。
サクラが所持していた「血の海地獄」のスクリーンショット画像に、アカウント所有者しか表示されないはずのツイートアクティビティのアイコンがついていたこと
→ サクラはアカウントの開設者(=所有者)であり、アカウントを乗っ取られただけなので、ツイートアクティビティが見れて当然である。
サクラが山縣泰介の情報に妙に詳しかったこと
→ 泰介の勤務先である大帝ハウスと取引のあるシーケンLIVEのショールームの存在を知っていた
悪質な売春行為でネットに名前がさらされてしまった人物が「砂倉紗英」で(サクラ)と読めること。
青江が山縣泰介を犯人ではないと考えた理由
山縣泰介が絶対に許さない日本語表現を、犯人のアカウントがツイートしていたから。
食欲減衰。しばらくご飯は食べられないなこれは
ら抜き言葉
石けんで手を洗ったんだが、全然まだ臭い
全然を肯定文で使っている
文字どうりのゴミ掃除完了
文字どうりではなく、正しくは文字通り
やっぱり悪くない人が理不尽な目に遭っているのを見るのは気分が悪いんですよ。『正義の心』というのが、私の中にもあるということでしょうね。(青江)
叙述トリックとしてやや無理がある点
娘は塾に通わせているので、塾にいる時間です。
泰介の妻・芙由子が、娘・夏実が塾に通っていると警察に証言している。塾と言えば小・中・高のいずれかを想像することが普通。資格試験のためとはいえ、大学生の夏実が塾に通っているのはやや違和感。
山縣泰介には小学生の娘がいるって情報がどっかで出てたけど、本人の年齢考えたらあり得ないような気がする。
山縣泰介の年齢は54歳。10年前の夏実は小学5年生で10~11歳。妻・芙由子の年齢は不明だが、十分にあり得るはず。
このままだとほんの小さな子供の手によって、山縣泰介が殺されてしまう
サクラ(夏実)はシーケンのコンテナハウスに残された封書(えばたんが泰介に送ったもの)を読んで、犯人が江端だと確信する。しかしこの時点では江端は大学生。ほんの小さな子供の表現するのは無理がある。

