小説『爆弾』ネタバレ解説|犯人の正体と物語の核心を徹底考察

「霊感で事件を予知できます。これから3回、次は1時間後に爆発します」

「このミステリーが読みたい2023年版」(宝島社)1位、「ミステリが読みたい2023年版」1位を獲得した呉勝浩によるベストセラー。

やや難解な内容なので、一読しただけでは全容を把握しきれなかった人も多いのではないでしょうか。

この記事では、小説『爆弾』を徹底解説します。

この記事は、小説・映画『爆弾』の重大なネタバレを含んでいます

小説『爆弾』の根幹・ネタバレ

爆弾テロを計画したのは、自殺愛好者サイトを通じて出会った長谷川辰馬・梶・山脇の3人。

その後、息子・辰馬のテロ計画を知った母・明日香が辰馬を殺害。

明日香から助けを求められたスズキタゴサクが、爆弾テロの話を聞かされ、テロの首謀者として振る舞う。

スズキタゴサクと辰馬・梶・山脇の3人は面識がなく、3人の犯行計画については詳細を把握していない。

小説『爆弾』は、爆発を予告するスズキタゴサクこそが爆弾犯として警察の捜査が進むが、実際は爆弾テロ計画を乗っ取ったというのがミソ。

ただし、スズキタゴサクも秋葉原、東京ドームシティ、代々木に爆弾を仕掛けて多数の死傷者を出しており、非常に悪質な犯人であることに変わりはない。

小説『爆弾』の真犯人は誰?

小説『爆弾』において犯人とされる人物は5人います。

  1. 長谷川辰馬:爆弾テロを計画。阿佐ヶ谷駅に爆弾を仕掛ける。シェアハウスにトラップを仕掛ける。母・明日香に殺される。
  2. 梶:同じく爆弾テロを計画。九段の新聞販売所に爆弾を仕掛ける。自殺、もしくは辰馬に殺される。
  3. 山脇:同じく爆弾テロを計画。山手線の駅に爆弾を仕掛ける。自殺、もしくは辰馬に殺される。
  4. 石川明日香(長谷川明日香):辰馬の母。辰馬から爆弾テロの話を聞かされ、辰馬を殺害する。
  5. スズキタゴサク:明日香に助けを乞われ、テロの首謀者として振る舞う。秋葉原、東京ドームシティ、代々木に爆弾を仕掛ける。

辰馬・梶・山脇の3人は明確な共犯関係にありますが、スズキタゴサクとは接点がありません。

理学部科学科卒の辰馬がおそらく全ての爆弾を製作したテロ首謀者。

死亡しているため動機は作中で明言されていないが、尊敬する父親の自殺がきっかけであることは間違いなく、シェアハウスのスクリーンに長谷部の映像を流し、警察をおびき寄せる仕掛けをしたことから、「父親を擁護してくれなかった警察への復讐」が動機のひとつである可能性が高い。

生き残った明日香とスズキは、いずれも犯行を認めていない。

小説『爆弾』の時系列・ネタバレあり

時系列① スズキの準備まで

  1. 辰馬・山脇・梶が阿佐ヶ谷駅、山手線の駅、九段の新聞販売所に爆弾を仕掛ける
  2. 山脇・梶が死亡する(服毒死。自殺、もしくは辰馬が殺害)
  3. 辰馬が明日香に爆弾テロの計画を話す
  4. 明日香が衝動的に辰馬を殺害する
  5. 明日香は娘・美海の将来を憂い、スズキに助けを求める
  6. スズキは秋葉原、東京ドームシティ、代々木の幼稚園、代々木公園に爆弾を仕掛ける
  7. 9月27日、スズキは川崎で明日香に爆弾を模した洋菓子を送り、タクシーで沼袋に移動する

この他、スズキは喫茶店にスアホをわざと置き忘れたほか、九段の新聞販売所を訪れyrバイクに仕掛けられた爆弾が無事であることを確認しています。

時系列② 第一部

  1. 9月27日、スズキが沼袋の酒屋の自動販売機を蹴りつけ、店員を殴る。
  2. スズキが取り調べで「22時に秋葉原で何かがある」と予言する
  3. 22時、秋葉原で最初の爆発が起こる。次の予告「ここから三度、次は一時間後に爆発する」
  4. 23時、東京ドームシティで2度目の爆発が起こる
  5. 取り調べ官が等々力→清宮に交代
  6. 9月28日4時、九段で爆発が起こる
  7. 11時、代々木公園で爆発が起こる(明日香にスズキから洋菓子が届く)
  8. 清宮がスズキの指を折る
  9. 矢吹と倖田がシェアハウスを訪れ、矢吹が床トラップに引っかかり右足を失う

時系列③ 第二部・第三部

  1. 取り調べ官が清宮から、類家に代わる
  2. 9月28日正午、「都内に爆弾を仕掛けた」とスズキタゴサクの動画が流れる
  3. 動画の第2弾が流れる。「安全なのは野方警察署だけ」「犯人を見つけて殺せば、爆弾は止まります。」
  4. 倖田が取調室に乗り込む
  5. スズキが新たなクイズを出す「狙われているのは東京の、丸ごとの駅ぜんぶです」
  6. 4時、阿佐ヶ谷駅と山手線の各駅で爆発が起こる

小説『爆弾』主な登場人物

スズキタゴサク

「わたし、他人の欲望がわかるんです。」

謎の中年男。酔って暴行を働き逮捕された。

取調室で名前以外のすべての記憶は失っていると主張し、霊感で刑事の役に立つことができると申し出る。

爆破予告とクイズを繰り出しながら、刑事たちを翻弄していく。

類家(ルイケ)

「さあ、はじめましょうか、スズキさん。化け物退治を」

警視庁捜査一課・強行犯捜査係の刑事で、スズキタゴサクと真っ向から対峙する交渉人。

もじゃもじゃの天然パーマに丸メガネの野暮ったい見てくれながら、ギラリとした鋭い観察眼と推理力をもつ。

等々力功(トドロキイサオ)

スズキタゴサクをはじめに聴取する、野方署の刑事。なぜかスズキに気に入られ、爆発に関する予言を打ち明けられる。

予言が現実となる中、スズキの秘密を探っていく。

尊敬する長谷部の性癖を目撃し、マスコミの取材に「気持ちはわからなくもない」とコメントする。

清宮 輝次(キヨミヤ テルツグ)

スズキタゴサクと交渉する、警視庁捜査一課・強行犯捜査係の刑事。

スズキが仕掛けるゲームに粛々と付き合い、対話を深めながら情報を引き出そうと試みる。

スズキタゴサクの指を折る。

長谷部 有孔(ハセベ ユウコウ)

相性は「ハセコー」。ドラゴンズファン。優秀な刑事だが、無残な犯罪が行われる現場で自慰行為にふける性癖を週刊誌にすっぱ抜かれた。

報道から三か月目、阿佐ヶ谷駅のホームから飛び降りて自殺。

長谷部 明日香/石川 明日香(ハセベ アスカ)

「わたし、もう嫌なのよ。誰かのせいで苦しむの」

長谷部有孔の妻。夫の死後、鉄道会社からの損害倍書により生活が困窮する。

息子の辰馬を殺害する。元スタイリストであり、スズキを散髪する。

長谷部 辰馬/石川辰馬(ハセベ タツマ)

長谷部有孔の息子。27歳。尊敬する父親の自殺を機に退職し、2年ほど前からシェアハウスに住む。最終学歴は理学部科学科卒。

自殺愛好者サイトで自殺仲間を募集する。

その他の途上人物

倖田沙良(コウダ サラ)

沼袋交番勤務の巡査。先輩の矢吹と常に行動を共にする。矢吹のあだ名は「サラダ」。

スズキタゴサクが問題を起こした酒屋に臨場し、野方署へ引き渡す。猪突猛進な行動派で、爆弾捜索に奔走する。

矢吹の将来を奪われた恨みから、スズキに拳銃を向ける。

矢吹泰斗(ヤブキ タイト)

沼袋交番勤務の巡査長。同期の伊勢をライバル視しており、交番勤務を卒業し、刑事になるチャンスとして野心をみなぎらせながら爆弾捜索に打ち込む。

シェアハウスに乗り込んだ際、爆弾トラップに引っかかり、片足を失う。

伊勢勇気(イセユウキ)

取調室でスズキタゴサクの事情聴取につきそい、見張り役を務める野方署の巡査長。スズキを観察しながら、その自虐的で不気味な発言に不快感をにじませる。

「あなたにだけ話す」とスズキに利用され、シェアハウスのトラップを招いてしまう。

山脇(ヤマワキ)

180センチの長身。服毒死。飲料メーカーの配達員。山手線各駅の自動販売機に、中身を爆弾に加工した缶を仕掛ける。

梶(カジ)

「アキバはこの国で唯一美しい場所だ」

日本とオランダ人のハーフ。服毒死。ミドルネームはアンドレアス。九段の新聞販売所で働くが、素行不良で解雇される。オタク。

九つの尻尾ゲーム、クイズの内容

とでも簡単な遊びです。いまから質問を九つします。刑事さんはそれに答えてくれたらいいです。そしたら最後に、わたしが刑事さんの心の形を当ててみせます

クイズ① 九段下の新聞社

  1. まずはタイガースです
  2. 半獣半人の化け物
  3. 焼肉のタン
  4. 神の言葉は母と子のみか

はじまるのはタイガースの試合
→十二時辰。24時間を二時間刻みで区切って、それぞれに十二支を冠した昔の時間法。子、丑、寅、卯。タイガーにあたる寅の刻は午前4時。

身体が牛で人面で、未来を予知するといわれている化け物
→くだん

焼肉のタン
→タン、舌、した

くだんした→九段下(東京メトロの駅名)

神の言葉は母と子のみか
→『カミノコトバハハハトコノミカ』、逆から読んでも同じ回文

カミノコトバは紙の言葉、回文。→しんぶんし

結論

爆弾は、朝刊を配る九段下の新聞社か販売所

なお、このクイズはスズキにとって説かれても良いクイズだった(自分が仕掛けた爆弾ではないから)

クイズ② 代々木

ヒント① お財布がすっからかんで、次の日に炊き出しがなかったら飢え死にしてたかもしれません

ヒント② 幼稚園か保育所

ヒント③ ふたつの夜、繰り返すだいだい色の夜

→ ヨとヨ、「代」と「々」。そして木曜日、「代々木」

ヒント④ 命の選択

子と午が示す方角、そしてゲート。公園より北にある幼稚園と南門。二兎を追う者は一兎をも得ず。

九段のクイズと比べると明らかに難題。代々木公園は、炊き出しの列に並ぶ、スズキタゴサクにつながる人物を消すために、どうしても爆発させる必要があった。

クイズ③山手線

狙われているのは東京の、丸ごとの駅全部です。

→丸ごとの駅→山手線の駅

スズキは標的が山手線の駅であることは知っていたが、駅名までは知らなかった。

爆弾を仕掛けた山脇が同僚とふたりで駅を回っていたため、改造した爆弾缶を好き勝手に仕込めるわけではなかった。

ただし、日々百万人以上が行き来する新宿駅だけは確実に仕掛けられていると考えた。

小説『爆弾』考察

なぜスズキは野方警察署からの移動を拒んだのか?

「ここがいいです。ここでないと駄目です」

霊感が働かなるからと主張し、野方警察署からの移動を拒んだスズキ。

長谷部 有孔が勤めていた場所であることも理由のひとつだが、スズキにとって長谷部の存在はどうでも良かった。

以上スズキタゴサクが、中野区野方警察署よりお伝えしました。

場所を指定した動画を仕込んでいたため、移動するわけにはいかなかった。

長谷部 辰馬の死因、爆破された理由は?

辰馬は、自殺じゃない。服毒死じゃないんです。だから死因をごまかす必要があった。爆破させなきゃならなかった。トラップに引っかけるために遺体を利用したのではなく、遺体を自然に破壊するためにトラップを利用したんです

辰馬の遺体もそうだと清宮は気づく。あの爆破工作で明日香の犯行を隠そうとしたのは、彼女を守りたかったからではなく、自分の犯行ではないと警察に見抜かれるのを恐れたゆえではないか。

凶器は、そうだな、ハサミなんてどう?

山脇と梶は服毒死による自殺と判明したが、辰馬は爆破により身体が粉々になったため、死因が分かっていない。

明日香が元美容師であることから、凶器はハサミの可能性があるが、実際は不明。

明日香が辰馬を殺害したことが明るみになることを防ぐため、スズキは遺体を爆破した。

スズキが秋葉原・東京ドームシティ・代々木に爆弾を仕掛けた理由

「辰馬たちが死んでから、あんたはこの事件の中途半端さをどうにか正そうとした。秋葉原、代々木、そして阿佐ヶ谷は総武線でつながる。九段も、無理やりおなじラインに括れなくもない。それに気づいて、あんたは水道橋駅がある東京ドームシティを二ヵ所目の爆心地に選んだ。山手線の円を横切る、線を一本つなげるために」きれいな構図を欲したゆえに。

代々木公園を狙ったのもおなじ動機だろ?自分を知る路上生活者、炊き出しのスタッフを始末するため。

髪を切ったのもそう。伸ばし放題、髭ももっとあったんじゃない?ぜんぶさっぱりして、まるで別人に生まれ変わった。スズキタゴサク。誰でもない存在に。

辰馬の爆弾テロを乗っ取ったスズキ。自分がテロの首謀者であることを印象付けるために、各地に新たな爆弾を仕掛けた。

「きれいな構図を欲する」ことにスズキがどこまでこだわっていたのかは不明だが、確実に爆発させたかったのは代々木公園のみ。

自身を知るものを排除したかった。

明日香がスズキに助けを求めた理由

美海の将来を考えれば簡単に自首もできない。爆弾魔の兄に子殺しの母。背負わせるには重すぎる十字架だ。息子を殺したばかりのパニックもあっただろう。長谷部の件があってから人付き合いを控えていた明日香には頼れる他人がいなかった。そこでホームレス時代、ドラゴンズのキャップをあげた男に、助けを求めた」

明日香の行動原理は明確で、美海を守りたかった。

家族(夫)の不祥事以降、生活が困窮しており、その繰り返しは何としてでも避けたかった。

<スズキは、明日香の殺人や辰馬たちの爆弾テロをすべて背負うと取り引きをもちかけた可能性が高い。藁にもすがる思いで。彼女はその誘いにのってしまった>

<明日香がスズキの案にのったのは、奴が辰馬の罪を引き受けてくれると信じたからです。娘の人生に与えるダメージを少しでも減らすため、せめて主犯から従犯に。できればスズキに脅されて無理やり協力させられたことにしてほしいと期待して手を結んだんです。>

だが、何らかの理由でスズキが途中で裏切ったため、スズキが白状するのを防ぐためにスズキを殺害しようとした。

スズキが犯行に及んだ理由

「ホームレス仲間から裏切者と疑われ、嗤われていたあんたに帽子をくれた人。その人が自分を利用しようとしてると知って、『まあいいや』が、『もういいや』になったんだろ?

スズキが明日香に爆弾を送った理由

被害の大きさに動揺し、すべてを白状される恐れもある。だからあんたは、美海を人質にすることにした。代々木の爆発に合わせて送り付けた爆弾は、明日香を殺すためじゃない。彼女を追いつめ、自分を殺すよう仕向けるためだ。(中略)明日香からすれば真相を暴露すると脅されるだけで一大事だ。

明日香に爆弾を持ってこさせる。それがあんたの最後の罠だ。

スズキが川崎駅からタクシーに乗った理由

川崎に行ったのは美海の様子を見るためか?明日香をその気にさせるのに、脅しの写真でも撮りたかったから?それが無理でも、明日香に爆弾を送り付ける宅配に川崎の消印があれば充分か(類家)

スズキは犯行当日、川崎から沼袋までタクシーで移動している。

川崎に行った理由は本文にある通り、明日香に爆弾を送り付ける宅配に川崎の消印をつけたかった。

明日香にすべてを白状されるのがスズキにとって最悪のシナリオであり、それをされないように美海を人質にとった。

小説『爆弾』ラストシーンについて

最後の爆弾は見つかっていない

シェアハウスにあった薬品などの備品から、すでに専門家は制作可能な爆弾の個数を割り出している。多くても20個程度。

爆弾の製造上限は20個。一方で爆弾が使われたのは19個。

九段・・・2個(1個は爆発、1個は処理班が解体)

代々木公園・・・3個

代々木の幼稚園・・・3個

秋葉原・東京ドームシティ・・・2個

阿佐ヶ谷駅・・・1個

山手線駅・・・8個

残り一個は明日香に送ったとみられていたが、実際には爆弾ではなかった。

「残り一個が爆発すれば事件は終わる。でもあんたは爆発させない。見つけさせない。そうすることで、おれたちを永遠に閉じ込めるつもりでいるんだ。あんたのゲームのなかに」